october sky〜遠い空の向こうまで〜

謎主婦・風信子(ヒヤシンス@nobvko)のブログです。宜しくお願いします♪

カテゴリ: ブロンテ

さて、アン・シリーズの原文を読むと、mayflowerの表記が2種類あることに気づきます。
大文字のMから始まるMayflowerと、小文字のmから始まるmayflowerと。
もちろん、文頭(文章の始め)にある場合には大文字表記となるので、その点には気をつけながら、大文字と小文字の2種類のメイフラワー、ならびにarbutusが出てくる箇所を次にように分類してみました。

【大文字で始まるメイフラワー】
〜『赤毛のアン』20章より〜
1) the Mayflowers blossomed out,
2) ”there are no Mayflowers,”
3) ”anything better than Mayflowers,”
4) ”not to know what Mayflowers are like”
5) "Do you know what I think Mayflowers are, Marilla?"
6) ”Mr. Phillips gave all the Mayflowers he found ”
7) ”I was offered some Mayflowers too,”
8) ”We made wreaths of the Mayflowers,”
9) After the Mayflowers came the violets,
〜『赤毛のアン』35章より〜
10) out in Avonlea the Mayflowers were peeping pinkly out on the sere barrens where snow-wreaths lingered,

〜『アンの愛情』20章より〜
* Gilbert had found some pale, sweet arbutus in a hidden corner.  He came up from the park, his hands full of it.
1) Gilert sat down beside her on the boulder and held out his Mayflowers.
〜『アンの愛情』22章より〜
2) with her hands full of Mayflowers and violets.
3) "I stopped by the barrens and picked these Mayflowers; I came through Violet-Vale; it's just a big bowlful of violets now---the dear, sky-tinted things."
4) "Spring's pages are written in Mayflowers and violets, summer's in roses,"
〜『アンの愛情』23章より〜
5) "It doesn't seem a day since I came home that spring evening with the Mayflowers."


【小文字で始まるメイフラワー】
同本内の他のメイフラワーが全て小文字表記である場合、文頭にある「大文字始まりのメイフラワー」も「小文字のメイフラワー」として分類します。)
〜『アンの青春』13章より〜
1) "It must be delightful to come into the world with the mayflowers and violets." 
〜『アンの青春』15章より〜
2) Since the earliest mayflowers Anne had never missed her weekly pilgrimage to Matthew's grave.

〜『アンの夢の家』18章より〜
1) Captain Jim came along another evening to bring Anne some mayflowers.
2) Captain Jim's mayflowers added the last completing touch to the charm of the night.
3) "How kind and thoughtful you are, Captain Jim, Nobody else-not even Gilbert "---with a shake of her head at him---"remembered that I always long for mayflowers in spring."

〜『虹の谷のアン』4章より〜
1) Mayflowers grew there and Jem never forgot to take his mother a bouquet as long as they lasted.(文頭の大文字。)
〜『虹の谷のアン』23章より〜
2) ---a little, delicate, beautiful spring rain, that somehow seemed to hint and whisper of mayflowers and wakening violets.
*He had been prowling about Rainbow Valley and had succeeded in finding the first little star-white cluster of arbutus for his mother.

〜『アンの娘リラ』12章より〜
1) The other evening Susan happened to say that the mayflowers were out in Rainbow Valley.
2) ”Mayflowers!”(文頭の大文字。)
3) "Jem brought me mayflowers last year!"
4) I would have rushed off to Rainbow Valley and brought her an armful of mayflowrs,
5) And after Walter got home last night he slipped away to the valley and brought mother home all the mayflowers he could find.
6) ---he just remembered himself that Jem used to bring mother the first mayflowers and so he brought them in Jem's place.
〜『アンの娘リラ』25章より〜
7) The mayflowers bloomed in the secret nooks of Rainbow Valley.
8) Jem had once taken his mother the earliest mayflowers;
*But before she had discovered any, Bruce Meredith came to Ingleside one twilight with his hands full of delicate pink sprays.
9)" I wrote Jem to-day and told him not to worry 'bout you not getting your mayflower," said Bruce seriously,

〜『炉辺荘のアン』5章より〜
1) He had brought her mayflowers for years and years and years…ever since he was four…but he wouldn't do it next spring.
〜『炉辺荘のアン』6章より〜
2)  "Mummy," he said sleepily, "of course I'll bring you mayflowers next spring…every spring."
〜『炉辺荘のアン』14章より〜
3) Jem brought his mother the first mayflowers…rather to Aunt Mary Maria's offence,
『炉辺荘のアン』21章より〜

4) The winter pattern of trees and fields was begining to be overlaid with hints of green and Jem had again brought in the first mayflowers.
*同23章の”the Mayflower”は、メイフラワー号のことなので除外。

「大文字で始まるメイフラワー」は、
1)アンが小学校のピクニックでクラスメートたちと摘んだり、
2)ギルバートがアンに摘んでくれたもの
「小文字で始まるメイフラワー」は、
1)アンからマシュウへ、
2)ジム船長からアンへ、
3)「ジム船長の名前をもらった」ジェムからアンへ、
4)そして「ジェムの代わりの」ブルースからアンへ摘まれたものでした。
前者がいわゆる詩心のわからない普通の人々(失礼)であるのに対し、後者はアンの詩世界をより理解している人たち、とは言えないでしょうか。

「小文字で始まるメイフラワー」には”spray”(
『マーミオン』でさんざしに用いられたワードと同じ)や"bouquet"(「装飾的にアレンジされた」花束)など、"wreath「リース」"や "garland「花輪」"と同義語となるワードが連なっていことも気になります。
アン・シリーズのmayflower  前編」にも書いたように、"garland"は『マーミオン』でさんざしの花輪を、"wreath"は『赤毛のアン』20章でメイフラワーの花輪を表した言葉ですが、そうした表現上の類似からも、『赤毛のアン』20章のピクニックの情景は『マーミオン』の「さんざしの花輪を作る子供たち」のイメージを連想させます。
その
一方で、『虹の谷のアン』で描写されたメイフラワーである”arbutus”が、 "cluster「集団、塊」"という無機的な表現であるのは、対照的な違いだと言えましょう。


もしかすると、
「小文字で始まるメイフラワー」は
さんざしをイメージし、
「大文字で始まるメイフラワー」はtrailing arbutusイメージしている、
という大胆な仮説が成り立つかもしれません。

例えば『赤毛のアン』20章の「大文字で始まるメイフラワー」。
前述したように、"wreath"という装飾的な表現で示されていることからは、次のように考えることができます。


*ノヴァスコシアで育った当時11歳のアンにとって、メイフラワーといえばtrailing arbutusのことであった。(ちなみに、trailing arbutusはノヴァスコシアの州花だそうです。)
*まだその時分のアンは、英国の詩に描かれているメイフラワーはtrailing arbutusのことだと勘違いしていた。
*大好きなスコットの『マーミオン』に描かれたメイフラワーは”May-flower”というように「大文字で始まる表記」であるため、北米大陸のメイフラワーであるtrailing arbutusを表現する際にも「大文字で始まるメイフラワー」でイメージしていた。

これは『アンの愛情』で
大学生になったアンに、ギルバートが摘んできてくれた「大文字で始まるメイフラワー」が”arbutus”と明記されていることや、その花が小学校時代のピクニックを思い出すアイテムであることとも矛盾しない考え方です。

この考え方でアン・シリーズのメイフラワーを読み解けば、『アンの愛情』20章の次のような表現についても、その意味するところがストンと腑に落ちるのではないでしょうか。
それは、大学生のギルバートがアンに摘んできてくれた花が "his Mayflowers"と書かれていることです。
まるで「ギルバートがメイフラワーだと思っている花」という風に受け取れる表現ですが、この時アンは18歳〜19歳。
当然のこととして『マーミオン』のMay-flowerがさんざしのことであり、北米大陸東海岸のメイフラワーであるtrailing arbutusではないことを知っていたでしょう。
そのことを裏付けるように一つ前に描かれた『アンの青春』では、全ての
メイフラワーが「小文字で始まる表記」となっており、それは当時16歳のアンが詩的な世界ではメイフラワーはtrailing arbutusではない」ということを既に知っていることを表しているのではないでしょうか。
スミレや雛菊の花が小文字で始まる表記になっているように、trailing arbutusという
北米大陸東海岸のメイフラワーも「小文字で始まる表記」になったと思われます。


そして「アン・シリーズのmayflower  前編」で前述したように、プリンスエドワード島にも自生しているhawthorn(さんざし)。
なのに
アン・シリーズの原文に一度も出てこない不思議さも、これで説明ができると思われます。

つまり、
アンが
勘違いも含めて「詩的なメイフラワー」はtrailing arbutusであるとイメージしていた時には「大文字で始まるメイフラワー」であった。
それが、そう
ではないと知ってからはtrailing arbutusは「小文字で始まるメイフラワー」になり、それが徐々にアンの詩的世界のメイフラワーであるさんざしの花も指すようになっていった。

だから、アン・シリーズには"hawthorn"の名が全く出てこない
のではないかという可能性です。


もしもそのように考えるならば、『アンの夢の家』の18章の、”Nobody else-not even Gilbert "---with a shake of her head at him---"remembered that I always long for mayflowers in spring."(ギルバートはメイフラワーを摘んできてくれませんのよ)と戯けて見せるアンの真意は、別にあることになります。

つまり、ギルは「彼にとってのメイフラワー」であるtrailing arbutusの花を摘んできてくれているのであり、しかしそれは、アンの詩的世界が渇望するさんざしの花ではないという意味かもしれません。

そうなると、「六十年も昔」に英本国から来たジョン・セルウィン先生から教わった詩(*)を、今でもすらすら暗唱できるジム船長は、アンにさんざしを届けていたことになります。(*『アンの夢の家』7章参照)
だから、原文にも”Captain Jim's mayflowers”「ジム船長のメイフラワー」とあるのではないでしょうか。

その名を受け継いだジェムがティーンエイジャーになる頃までは、普通にtrailing arbutusの花をメイフラワーだと思っていたので、その初咲きをアンに届けていたのでしょう。
しかし、『虹の谷のアン』でジェムが13歳になろうとしている頃からは、母が本当に望んでいる「5月の花」はさんざしであることに気づき、trailing arbutusの花とは別にさんざしも届け始めたのではないでしょうか。
だから、23章のarbutusは「花束」ではなく「cluster(塊)」と、あえて素っ気なく表現されているのかもしれません。

そして、『アンの娘リラ』では出征したジェムの代わりを務めたウォルターやブルースも、ジェムに倣ってさんざしの花をアンに届けていたと考えれば
、カナダでは5月から6月に咲くさんざしと、『アンの娘リラ』の「初咲きのメイフラワー」の「史実との関係性から明確に特定される初咲きの時期:4月末から5月初め(**)」との間には、なんの違和感もなくなるのです。(**「アン・シリーズのmayflower  前編」参照)

ブルース少年が届けてくれた「小文字のメイフラワー」が、"spray"という『マーミオン』と同じ表現で物語に置かれているのも、それがさんざしの花だったからではないのかと。

このようにモンゴメリは、アン・シリーズに出てくるメイフラワーを
大文字と小文字の書き出しの違いによって微妙にイメージし分けていた可能性もあるのではないでしょうか。

もちろん、モンゴメリにとってもアンにとっても、どちらのメイフラワーも大切な5月の花であることに変わりはないのですけれど。

ここまであれこれ、アン・シリーズのmayflowersについてなりに深掘りしてしまいましたが、そもそも異国の物語に描かれている花のイメージは、読んだ人それぞれの想像力に委ねていれば正解でしょう。


『マーミオン』の故郷、英国スコットランドのボーダーズ地方を流れるツイード川の辺(ほと)りの、いにしえのOld Melroseのイメージ(***)からモンゴメリによって創り出された空想世界が "Avonlea"なのだから、モンゴメリやブロンテのように詩的世界を愛するアンにとっての "mayflower"は、やっぱり「さんざし」のイメージなのだと感じるのような読者もいることを、ここに記しておきたいと思います。 


(***詳細は『赤毛のアン ヨセフの真実』第二部をご参照ください。)

アン・シリーズに描かれるmayflowersは、村岡花子さんが訳した「さんざし」のことではなく 、 trailing arbutusという花のことであると、本やネットにまことしやかに書かれるようになった今日この頃。
プリンスエドワード島ではメイフラワーといえばtrailing arbutusのことだから、と言う理由と共に、『アンの愛情』20章と『虹の谷のアン』23章の原文には明確に ”arbutus”と表記されていることが、そのような主張の根拠になるのでしょう。

trailing arbutusとはどのような植物なのでしょうか?
プリンスエドワード島で自然環境教育に取り組んでいるNPO "The Macphail Woods Ecological Forestry Project" のサイトには、次のように書かれています。

For Catherine Macphail, the best-loved flower was the mayflower or trailing arbutus. Sir Andrew wrote that “her first excursion after the winter was gone, and snow lay only in shady places, was to the moist woods in search of those small pink flowers on their glistening vines.” The leathery leaves of the mayflower remain green throughout the year and always hold great promise for next spring.太字は私によります。)

要約すると、日陰に冬の名残の雪が残る頃、ぬかるんだ森の中へ探しに出かける小さなピンク色の花、それがmayflower または trailing arbutusと呼ばれる花であり、その葉は一年中緑色をしているとあります。
ちなみに、"vines"というのは「ブドウのように茎がつる状になる植物」のことだそうです。


また、こちらの”Conservation Assessment for trailing arbutustrailing arbutusの保護評価)”という論文には、   

Trailing arbutus is subject to collection (its evergreen leaves常緑の葉 are used for wreathsリース)”  

"Trailing arbutus, Epigaea repens L., is a prostrate, trailing evergreen shrub. It is found in sandy or rocky, usually xeric, woodlands 森林地帯with acid soil throughout the eastern United States and Canada. "
" It is reported from Canada in sandy or peaty woods泥炭の森 and clearings空き地、森林の中の開拓地 (Scoggan 1979) and conifer woods針葉樹の森 (Scoggan 1950)."

と書かれてあり、要約すると、trailing arbutusは北米からカナダに及ぶ東部地域の、主に森林の中で咲いていて、その一年中緑色をしているためリースに使われる、などとあります。
アン・シリーズに描かれているmayflowersとは、なんとなく様子が異なると感じるのはだけ?

モンゴメリはmayflowersをどんな風に描いているのか、まずはアン・シリーズで初めてmayflowerが描かれる『赤毛のアン』20章を、原文で読んでみることにしましょう。

SPRING had come once more to Green Gables—the beautiful capricious, reluctant Canadian spring, lingering along through April and May in a succession of sweet, fresh, chilly days, with pink sunsets and miracles of resurrection and growth. The maples in Lover’s Lane were red budded and little curly ferns pushed up around the Dryad’s Bubble. Away up in the barrens, behind Mr. Silas Sloane’s place, the Mayflowers blossomed out, pink and white stars of sweetness under their brown leaves. All the school girls and boys had one golden afternoon gathering them, coming home in the clear, echoing twilight with arms and baskets full of flowery spoil.【中略】"We made wreaths of the Mayflowers and put them on our hats; and when the time came to go home we marched in procession down the road, two by two, with our bouquets and wreaths, singing ‘My Home on the Hill.’ "【後略】

5月の気持ちよく晴れた昼下がり、サイラス・スローンの地所の裏手にある荒れ地で開花したピンクや白い星のようなメイフラワーを、花束(bouquets)や花輪(wreaths)にして帽子に飾り、家路に着く楽しげな子供達の描写です。

アン・シリーズのmayflowersがtrailing arbutusの花であるという主張にうなづかれる方々は、ウィキペディアなどに写し出される5つの花弁が星型をしているので、思わず納得してしまうのかもしれません。
またtrailing arbutusは、冒頭で紹介した"The Macphail Woods Ecological Forestry Project" のサイトにあるように「日陰に冬の名残の雪が残る頃、ぬかるんだ森の中へ探しに出かける小さなピンク色の花」ですから、春の遅いプリンスエドワード島の5月に、子供達が摘んだのはこの花だと考えるのかもしれません。

確かに調べてみると、プリンスエドワード島のtrailing arbutusの開花期は4月15日〜5月15日(*)なので、『赤毛のアン』20章の描写とも合っています。
(*"Island Woodland Plants"のサイトの41ページ目を参照のこと。)


さて、モンゴメリの心の同類 シャーロット・ブロンテが著した『ジェイン・エア』ではジェインに「当時の本物の作品の一つ」として与えられ、モンゴメリが描いた『赤毛のアン』ではアン・シャーリーが諳(そら)んじるのが、ウォルター・スコットの『マーミオン』(1808年出版)という物語詩です。


INTRODUCTION TO CANTO FIRST4447 lineより   

My imps, though hardy, bold, and wild,    私の悪戯っ子たちは、頑健で大胆で、そして野生的で、

  As best befits the mountain child,      山の子にいかにもふさわしいように、

  Their summer gambols tell and mourn,    夏には、はしゃぎ戯れたり、また悲しげな様子をして、

  And anxious ask will spring return,      心配そうに問いかけたりする。

  And birds and lambs again be gay,      「春はもう一度戻って来て、鳥や子羊は陽気に遊び、

  And blossoms clothe the hawthorn spray?  さんざしの小枝はまた花で飾られるの?」と。 


  Yes, prattlers, yes, the daisys flower    そうさ、子供たちよ、この通り、

  Again shall paint your summer bower;    雛菊の花は夏の住まいを彩り、

  Again the hawthorn shall supply      さんざしは、またお前たちが、

  The garlands you delight to tie;        楽しげに結ぶ花輪を贈り、

  The lambs upon the lea shall bound.    子羊は草地を跳ね回り、

  The wild birds carol to the round,      鳥たちはひっきりなしに囀り、

  And while you frolic light as they,       そしてお前たちも同じように、軽やかに遊び戯れていると、

  Too short shall seem the summer day.”    夏の日はあまりに短く思われるだろう。
                    (『ウォルター・スコット邸訪問記』アーヴィング著 斎藤昇
                       訳 岩波文庫 p.43〜44より訳詩引用)

INTRODUCTION TO CANTO FOURTの179〜180 lineより

”From the white thorn the May-flower shed  (拙訳)白いさんざしの花輪から瑞々しい香りが放たれる。

Its dewy fragrance round our head.”       


                *太字はによります。


よく知られているように、『マーミオン』に描かれた "May-flower"は "hawthorn"(さんざし)のこと

さんざしの花は春が到来したことを告げる象徴であり、物語詩の中で子供たちがさんざしの花輪(garlands)を「楽しげに結」んでいる情景は、『赤毛のアン』20章のシーンと重なって見えます。


プリンスエドワード島にも
hawthorn(さんざし)は自生しているそうで、"The Macphail Woods Ecological Forestry Project" という前述サイトでは、星のように5枚の花びらからなるさんざしの写真が、The white or rarely pink flowers(白、稀にピンクの花である)”という記述と共に確認できます。
また、別のサイトにはカナダのさんざしの開花期は5月から6月と書かれてあります。

一方で、アン・シリーズ(『アンの幸福』を除く)に毎回描かれているmayflowersのほとんどは、その開花が4月あるいは5月の具体的にはどのあたりであるか、はっきりとは示されていません。
しかし『アンの娘リラ』では、物語の時系列が史実と照らし合わせて描かれているため、かなり明確に「初咲きのmayflower」の時期を特定することができます。

例えば
12章の「イープル周辺の戦闘ランゲマルクセントジュリアンの戦況ニュース村岡花子訳)

the fighting around Ypres"というウィキペディアから、それぞれの戦闘年月日が次のようにわかります。

     *イープル周辺の戦闘 ”the fighting around Ypres" は、1915年4月22日〜5月25日。
  *ランゲマルク ”the battles of Langemarck" は、同年4月22日〜23日。
  *セントジュリアン "St. Julien" は、同年4月24日〜5月4日。

前述の戦況ニュースが報じられたのは、同ウィキペディアにある「4月26日付のThe Daily Chronicle」あるいは同日付のThe Daily Mail紙の戦況ニュースと同タイミングと考えられます。(*下の拙注1参照)
当時のカレンダーで確認すると、その「1915年の4月26日」は月曜日で週始め。
4月26日(月)の戦況ニュースから、
「やっとの思いで過ごしてきたこの三週間 村岡花子訳)」原文:"during the three weeks she had just lived through"

の後に、ジェムから無事を告げる手紙が届くという記述があるので、4月26日から3週間目に当たる5月15日〜17日頃、ジェムの手紙が届いたことがわかります。

その手紙の1週間前の夜に、「ナンとダイとウォルターがレドモンド」大学から帰宅していて、それが5月7〜8日ごろの週末であるとすると、その数日前 "The other evening" 村岡花子訳では「この間の晩」)に、「虹の谷にmayflowersが咲き出した 」原文:"the mayflowers were out in Rainbow Valley.”
記述されているので『アンの娘リラ』12章のmayflowerは5月頭の2日〜4日ごろ咲き出したことが推測できます。


それから、同25章では 
ビミー山脈の戦い(Vimy Ridge ”)」から2週間ほど後の「ある夕方」、


ブルース・メレディスが華奢な薄紅色の小枝を腕にいっぱいかかえて炉辺荘を訪れた ”Bruce Meredith came to Ingleside one twilight with his hands full of delicate pink sprays.”」村岡花子訳


とあります。
戦地に赴いている
ジェムやウォルターの代わりに、牧師館の少年ブルースが ”the earliest mayflowers"(初咲きのmayflowers)をアンに届ける描写なので、この25章の「初咲きのmayflowers」はビミー山脈の戦いが行われた1917年4月9日〜12日から2週間ほど後の、4月末のことだとわかります。

前述したように、プリンスエドワード島のtrailing arbutusの開花は4月15日からとなっています。
それなのに、明確に時期が特定できる『アンの娘リラ』のmayflowerの初咲きが、5月の初めだったり早くても4月末であることには若干の違和感を覚えます。

また、『アンの娘リラ』25章にあるspraysと言う表現は、ウォルター・スコットの『マーミオン』に謳われたさんざしの"spray”と言う表現と同じです。

何より『赤毛のアン』の引用だけでなく、『虹の谷のアン』の3章でもアンの次男坊ウォルターが、
「スコットの『マーミオン』にひどく似ている叙事詩を、ひそかに、いっしょうけんめい書いている」村岡花子訳 (原文: "he was secretly hard at work on an epic, strikingly resembling “Marmion” )
と描かれている
『マーミオン』は、アン・シリーズになくてはならない英国の物語詩。
なのに、花や草木の描写で溢れているアン・シリーズに、どこをどう探しても『マーミオン』に謳われている"hawthorn"の名が一度も出てこないのはなぜなんでしょう?

もしかするとアン・シリーズでは、 "hawthorn"は "mayflowers"だから、ではないでしょうか。

このようにみてくると、モンゴメリが『赤毛のアン』20章で描写した"pink and white stars"は、ピンクや白の5枚の花弁が星型をなす「さんざし」の花である、と言っても一向に差し支えがないように思えてきます。

しかし忘れてはならないのは、冒頭でも述べたようにアン・シリーズには2回ほど、arbutusとはっきり記述されている箇所があること。

これは一体、どう言うことなのか。
不思議だなぁと思いつつ、数日を過ごしたは、ある朝、この謎を解く「鍵」があることに気が付きました。

それは・・・。
(「アン・シリーズのmayflower後編」へ続く)



*拙注1: 
その戦況ニュースが掲載されていた新聞は、『アンの娘リラ』1章でスーザンが読んでいた "the Daily Enterprise"でしょう。(村岡花子訳では「毎日新報」。同じ名の新聞は『アンの夢の家』や『炉辺荘のアン』にも出てくる。)
『アンの娘リラ』1章で、スーザンが満足気に読んでいた新報の第一面には、1914年6月28日に勃発したサラエボ事件の報が載っていて、続く2章の次のような記述(**)から1章と2章が同じ日の出来事であることがわかります。
そして、2章のリラの台詞「六月は愉しい月だったわね?」原文:"Hasn't June been a delightful month?"や「来月、あたしは十五になるのよ」どちらのセリフも村岡花子訳より原文:"I'll be fifteen in another month,"から、その日が6月最後の30日であることが推測されます。
つまり28日に起こったサラエボ事件が新聞に掲載されたのが事件2日後の30日ということになり、それと同様に考えると、「イープル周辺の戦闘ランゲマルクセントジュリアンの戦況ニュース」が報じられたのは早くとも「セントジュリアンの戦いが開始された4月24日」から2日後であると考えられます。


(**『アンの娘リラ』1章には「扉口から吹き入る涼しい快い微風は、庭から幻想的な匂いと、リラやミス・オリバーやウォルターが笑ったりしゃべったりしている蔦の垂れ下がった一隅の楽しそうな賑やかな声のこだまを運んできた。」とあり、2章ではその3人が同じ光景の元で憩っている。)

『赤毛のアン ヨセフの真実』第五部「補章編」を、一昨日ノートサイトにupしました。
これで、全5回の投稿が完結です。
全体をまとめたものを、パブーの方にもupしました。
パブーのサイトでは添付画像がありませんので、ちょっと分かりにくいかもしれません。

なおアルビオン(Albion)とアヴォンリー(Avonlea)の「アナグラム繋がり」についての指摘は、日本語、英語の双方でネット検索してみたところ、現時点ではの「本」以外には見当たらないことを確認済みです。
スペルに囚われざるを得ないアナグラムなので、これは当然のことかもしれません。
スペルではなくその音に注目しなければ、両者にアナグラム的繋がりがあることには気づけないのです。

『赤毛のアン ヨセフの真実』第四部「タイムラインに隠されたもの」を、ノートのサイトにUPしました。
9章から最終章までの4つの章に、まだどこにも書かれていない独自視点で、アン・シリーズの操作されたタイムラインの秘密や、モンゴメリの死と再生について書いています。

そして明日はアヴォンリーのネーミングについてなど、より一層沼深い補章を3つ公開する予定です。
よろしくお願いいたします。

『赤毛のアン ヨセフの真実』第三部「アン・シリーズとブロンテ作品の符合」を、ノートのサイトにupしました。
引き続き、6章から8章まで、どこにも書かれていない新しい視点でブロンテ作品との符合についての未発表部分と、kindred spiritsに関する新たな視点を書いています。

毎日一部ずつ、全5回に渡っての公開ですが、よろしくお願い致します。

『赤毛のアン ヨセフの真実』第二部「失われた世界への憧憬」を、ノートのサイトにUPしました。
昨日に引き続き、3章から5章まで、どこにも書かれていない新しい視点で、モンゴメリのアン・シリーズの原郷を探っています。
今回一押しの面白さ!間違いなしです。


毎日一部ずつ、全5回に渡って公開します。
よろしくお願いいたします。

赤毛のアン ヨセフの真実第一部、1章から2章までを、ノートのサイトにアップしました。
どこにも書かれていない新しい視点で、アン・シリーズの初期タイムラインや、シャーロット・ブロンテの年譜との符合について書いています。
初ノートで朝からテンテコ舞い☆


毎日一部ずつ、5回に分けて、順次公開予定です。
よろしくお願いいたします。

この猛暑にも関わらず、なんとか元気にしております。
相変わらず大量の飲水と2〜3時間毎のトイレ休憩(8時間の就寝中は3〜4時間毎のトイレ起床になりますが)は続き、数値もパンやコーヒーを再開したせいで悪化の速度が一時早まったりしましたが、日課となった房総のむらを抜ける25分間の散歩では、その道中の最後で待っていてくれる(?)オケラとの出会いを毎日の楽しみに、田圃道と木陰道の合間にある坂道をせっせと登れています。
オケラはなぜか毎回同じ穴に居て、顔だけ少し覗かせている状態で出会うのです。
ネットで調べてみたオケラの顔と同じなので、多分オケラです。
まるで父がそこに居て見守ってくれてる気分で、ラストスパートに入るです。

さて、今年に入ってからまとめようと奮闘してきたものが、ついに8月26日までにはパブーの素人用図書(?)とノートのサイトに公開することができそうです。
なぜ8月26日かということについては、まずは読んでいただければと思います。
7年に一度きりしかこない「8月最後の水曜日」がちょうど26日となる今年の夏に、今やライフワークになったとしか思えないことがらの第三弾を仕上げる目処がついたことに、改めて感慨を覚える今日この頃です。

nobvkoの夫のお陰で、としては珍しくも大胆な構成となりました。
どうぞお楽しみに。

nobvko.


P.S.  最近のとしてはこれまた珍しくもフライングゲット〜♪した米津さんのCD。
「カンパネルラ」や「ひまわり」、特に「デコルテ」は上記作業が上手くまとまらない時に聞くととてもイライラするのですが、目処がつき始めてから改めて聴くとあら不思議、「カンパネルラ」や「ひまわり」は気分転換にもってこいの曲となります。
でも、「デコルテ」はいつ聞いてもダメ。
どうしてなんでしょう?

「海の幽霊」は何度聞いても素晴らしい。
驚きと喜びしかないです。

4話から観ました、『映像研には手を出すな!』。
雷に打たれたようになり、早速毎週録画予約を開始。(遅)
映像研の3人、まるでブロンテ姉妹じゃあア〜リマセンカ!
ちょこちょこしている浅草さんはシャーロット、目つきの悪い金森さんはエミリー、上品な感じの水崎さんはアン。

シャーロットが妹のエミリーをモデルに描いた『シャーリー』に、
「彼女は眠っていた。シャーリーは興奮したときには、大抵こうした自然な休養をとる。彼女は望むときには、いつも眠ることができた。」
という一節がありますが、これはまさに唐辛子ラーメンが出来上がるまでのひと時、横になって眠ってしまう金森さんの姿そのもの。

原作者の大童さんも読んだのかなぁ、ブロンテ。

『映像研』は2016年から連載されていたそうですが、シャーロット・ブロンテが生まれたのは1816年。そして、『映像研』の時代設定が(wikipediaによると)2050年代で、ブロンテ姉妹の作品が出版されたのは1847年〜1853年。
200年の時を超えてる!?

『いだてん』の総集編第一部前編を、先ほど観ました。
ちょこっとだけ房総のむらの初等科正堂前の広場が映ってましたが、美川のシーンはもっとちょこっとで残念…だけど総集編だからしょうがない。
録っておいた第3話を、また観ればいいか。

それはそうと、幼い四三が出かけて行った熊本第五高等学校で、加納先生の代わりに抱っこして(持ち上げて)くれた人は確か夏目漱石だったと記憶していますが、あの頃の漱石がブロンテの作品について初めて活字にしていたことを知ったのは、何を隠そうつい最近です。(
でも、四三がストックホルムでオリンピックに出ていた頃、モンゴメリはカナダで長男を出産してたんだなぁと、昨年のオンタイム中に感慨に耽ったことを、改めて思い出したりしました。

それにしても、熊本の実家近くの川辺でスヤさんが歌ってた唄にも、四三がストックホルムで歌ってた君が代にも、「千代八千代」と言うフレーズが入っていたのが、ワタシ的にはjust timing!
今年から八千代にある病院に転院して、治療に臨むことになり、今日はその予約が取れたので一安心。
と同時に、ラスト千葉大の日でもありましたが、同じ和漢の先生が八千代の病院でも引き続き診てくださることになり、こちらも大安心!

気分も新たに、進んで行こうと思います。

2020年9月16日覚書:
【Anne シリーズ】
1)『あまちゃん』2013年            →『赤毛のアン』
2)『ごめんね青春!』2014年     
       -----新米教師    
→『アンの青春』
3)『ゆとりですがなにか』2016年
       -----学び、恋愛   
→『アンの愛情』
4)『監獄のお姫さま』2017年
                         -----囚われの小さなエリザベス    →『アンの幸福』
                   
-----プリンス江戸ミルク→  プリンスエド(ワード島)     
5)『いだてん』2019年     →『アンの夢の家』〜『アンの娘リラ』
       -----結婚、戦争
2021年5月12日追記:
6)『俺の家の話』2021年   →『アンの夢の家』


【シャーロット・ブロンテ作品】
1)『WASIMO』2012年     →『ヴィレット』第23章の「ワシテ」
2)『あまちゃん』2013年      
                           -----
ラストの合同結婚式  →『シャーリー』のラスト
3)『ごめんね青春!』2014年   
                      -----隣り合わせの男子校と女子校 →『ヴィレット』

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